なんだか「メタバース」を勘違いしてる人多くない? – ザハハディド・アーキテクツの事例に学ぶ「メタバース」-

なんだか「メタバース」を勘違いしてる人多くない?ザハハディド・アーキテクツの事例に学ぶ「メタバース」

最近、「これメタバースじゃなくない?」ってプロジェクトをよく見かけます。

こういったのが増えると、メタバースがもっと誤解されていく。。ので、改めて「メタバース」についてまとめながら、ザハハディド・アーキテクツが設計した「リベルランド・メタバース」を参考に見ていきましょう。

※全体で3700文字近くとなっていますが、ざっと読みたい、時間が無い方は太字だけでも追えば内容がわかるようになっています。

メタバースの定義とは?

実は「メタバース」とは、SF小説内に出てきた造語です。(1992年 ニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』に出てくるらしい。)

なので明確な定義はありません。この点が色々な人の誤解やモヤモヤにつながっているように思います。

そこで、ここからはまず「メタバース」とは何か。「スノウ・クラッシュ」の中でどう使われているワードなのかを見ていきます。

MetaとUniverseを掛け合わせた造語が「メタバース」

Meta:「超越した」や「高次の」という意味の接頭辞

Universe:宇宙

というと分かりづらいですが、「スノウ・クラッシュ」の中でメタバースは「コンピュータのつくり出した宇宙」として表現されています。ちなみに作品における「メタバース」とは、仮想空間サービスの名称です。

仮想現実が現実に近い状態まで進化しているという世界観で、人々はゴーグルとイヤホンを装着して仮想世界に入ることができます。

そして、この仮想世界において人々は、アバターを通じて他者とコミュニケーションをとったり行動したりすることができる訳です。

まとめると、他者とコミュニケーションをとったりできる仮想空間がメタバース、ということになります。

広義のメタバース、狭義のメタバース

ここまでみてきた「メタバース」。このワードの使い方には大きく分けて2通りあると思っています。

これらが一緒くたに使われているのも「メタバース」が分かりづらくなってる一因かと。。

これらを区別するために、私自身が勝手に分けて呼称している「広義のメタバース」「狭義のメタバース」として記載します。

広義のメタバース

先ほどのSF小説でみてきた通り、メタバースは「他者とコミュニケーションが取れる」というのがポイントです。

そして、現代のゲーム、特にPCゲームはそのほとんどが「ネットでつながった誰か」と協力したり対決したりする。このゲーム等におけるメタバースを「広義のメタバース」とします。

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リベルランド・メタバース Render by Mytaverse

狭義のメタバース

一方、特にメタバースに詳しい人たちが使う「メタバース」という単語にはまた別の意味がこもっています。それが「狭義のメタバース」。

この「狭義のメタバース」では他者とコミュニケーションを取れるのはもちろんのこと、さまざまな経済活動をすることができます。

ただ空間があるだけでは、人々は継続的にその空間を使用しない。経済活動にも紐づくことで継続的に使用される空間となる、という考え方です。

経済活動もできる仮想空間はもはや第2の世界、「コンピュータがつくり出した宇宙」として、「スノウ・クラッシュ」の世界観にもつながってくる訳です。

ザハハディド・アーキテクツ「リベルランド・メタバース」

では実践されている「狭義のメタバース」の事例として、ザハハディド・アーキテクツが設計した「リベルランド・メタバース」をみていきます。

が、詳細を追っていくと長くなるので、今回は重要な要素を抽出しながら見ていきます。

より詳しく知りたい!という方はこちら

国家のバーチャルな分身としてのメタバース、ザハ・ハディド・アーキテクツが設計した現実とリンクする仮想空間〈リベルランド・メタバース〉

リベルランドとはチェコ人の政治家ヴィート・イェドリチカが2015年に建国した国です。

ヴィート・イェドリチカ自身の政治観を実現するには、既存の国を変えるより新しい国をつくった方が早い、ということで建国され、この考えに共感し市民権を申請する人が世界中に60万人いるという、とってもアグレッシブな国です。

そのリベルランドのバーチャルな分身として設計されたのが「リベルランド・メタバース」。

ここで大事となるキーワードが4つあります。

・ブロックチェーン:インターネット上の取引データを適切に記録する、下記3つのベースとなる技術
・Web3.0:「分散型のインターネット」の時代と呼ばれるもの
・仮想通貨:デジタル内での通貨
・DAO(分散型自立組織):管理者がいなくともプロジェクトを推進できる組織

馴染みがない人には頭が痛くなりそうなワードの数々。

どれもこれも分かりづらいので順を追って説明していきます。

なんだか「メタバース」を勘違いしてる人多くない?ザハハディド・アーキテクツの事例に学ぶ「メタバース」

リベルランド・メタバース Render by Mytaverse

まずはブロックチェーン

これを用いることで、複数のユーザーで取引情報が共有されます。そうすることで、もしもどこかでデータの改ざんなどが行われたとしても、他のユーザーとの差異が発生するため不正がすぐに見つかる、という訳です。

つまり、ユーザー同士がネットワーク上で互いのデータをチェックし合うことでセキュリティを確保できる、という訳です。

次にWeb3.0

こちらも分かりづらいので順を追って。

Web1.0情報の発信者と閲覧者が固定されていた時代。

インターネットに情報を発信できるのが、自分たちのHPなどを持っている企業や人に限定されていて、閲覧者はそれを見るだけという一方通行のコミュニケーション

Web2.0:SNSの普及により、誰もが発信者でも閲覧者でもある、いわゆる現代のインターネット

この時点ですごく便利!なのですが実は問題が。それがGoogleやTwitterといった特定の企業へ情報が集中してしまうこと。
よく「中央集権」とも呼ばれますが、情報が集中することでサイバー攻撃によるセキュリティのリスクや、個人情報のプライバシーが巨大企業に独占されるといった問題が指摘されています。

そこでWeb3.0です。これは先ほどあげたブロックチェーン技術により中央集権に依存しないセキュリティの確保とコミュニティを目指す時代です。もっと噛み砕くと、「デジタル内で完全に自由になるためのもの」ともいえます。

これには国境の制限なくサービスを利用できるというメリットがあります。日本ではあまり意識はしませんが、国によっては海外の情報にアクセスするのが難しかったりします。
この点が「狭義のメタバース」や「リベルランド・メタバース」では重要で、国という「中央集権」に依存せず、真に自由に世界中の人々とコミュニケーションを取れる!という訳です。

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リベルランド・メタバース Render by Mytaverse

そして仮想通貨

これもブロックチェーンをもとにしたもので、デジタル内での通貨です。

これのスゴイところは、「中央集権じゃない通貨」ということ。
日本でいえば円は日本銀行が発行している通貨ですが、これを海外の人に振り込むには別の通貨に変換したりとかなり時間と手間がかかってしまいます。

これが仮想通貨であれば一瞬でできる、中央集権じゃないからこそできる金銭取引ができる訳です。

これは国境を超えたコミュニティを目指すWeb3.0なメタバースには必要不可欠と言えるでしょう。

最後にDAO

これはデジタルな会社のようなもので、人々が地理的に分散しながら、特定の株主や管理者がいなくとも、事業やプロジェクトを推進していくことができる組織です。

管理者に依存しない、中央集権じゃない組織という訳です。

それぞれのワードはかなりざっくり説明している(それぞれが本1冊かけるほどのボリューム)ため、興味があるひとはぜひ調べてみてください。

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リベルランド・メタバース Render by Mytaverse

ここまで見てきた、ブロックチェーンをもとにした「Web3.0」、「仮想通貨」、「DAO」をまとめてデジタル上に社会をつくる、というのが「狭義のメタバース」であり「リベルランド・メタバース」です。

まとめると、「広義のメタバース」は楽しめる空間、「狭義のメタバース」は国や大企業といったしがらみから解き放たれた第2の世界、といえますね。

 

そして「リベルランド・メタバース」は国家の実験場的にも使用されます。

そもそもこの「リベルランド・メタバース」は、実際のリベルランドの国土をデジタル上で再現し、その上につくっている仮想空間です。

このメタバース内で建築は実験的にも活用され、そのまま現実にも建てることもできます。

仮想と現実を横断したプロジェクトとできることが、建築家がメタバースに関わることでできるメリットの1つでもありますね。

なんだか「メタバース」を勘違いしてる人多くない?ザハハディド・アーキテクツの事例に学ぶ「メタバース」

リベルランド・メタバース Render by ZHA

「広義のメタバース」と「狭義のメタバース」にできること

さて、長々と話してきましたがここからはかなり個人的な思惑も混じった話になってきます。

ここまでで広義と狭義、それぞれだいぶ質が違うことがわかると思いますが、それぞれを分けて考えるのではなく、つなげて考えるべきだと考えています。

実は私はよく友人とゲームをするのですが、こういったゲームって「デジタル上での待ち合わせ」にちょうど良い

自分だけで遊んでいる時に友人がログインしてくれば一緒に遊ぶ、といったように自然にオンラインでのコミュニケーションに移行できる訳です。

この点が「広義のメタバース」のメリットだと考えています。

そして、このゲームのファンであれば、ゲームの世界観を持ってつくられた「狭義のメタバース」があればぜひ使ってみたくなると思いませんか?

例えば大人気のテレビゲーム「スプラトゥーン」の世界観で街の壁を塗りたくりしながら移動できる「狭義のメタバース」があれば私は真っ先にログインします。

そしてこの「狭義のメタバース」には、国境を超えたスプラトゥーン好きのコミュニティが生まれるはず。また、「広義のメタバース」であるゲームが「狭義のメタバース」の入口になってればシームレスにどちらのメタバースも楽しめる!

そんな世界が実現することを夢見ています!それでは!